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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)10051号 判決

原告

大阪府中小企業信用保証協会

右代表者理事

伴恭二

右訴訟代理人弁護士

藤井俊治

被告

中山建設株式会社

右特別代理人弁護士

中森宏

被告

中山公典

右訴訟代理人弁護士

藤井義夫

被告

水流保

主文

原告の被告中山建設株式会社に対する訴えを却下する。

原告の被告中山公典及び同水流保に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1. 被告らは、原告に対し、連帯して一四六万六四一〇円及び内一四六万四一八七円に対する昭和五六年九月四日から支払済みまで年一四・六パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による金員を支払え。

2. 被告中山建設株式会社及び同中山公典は、原告に対し、連帯して、六八二万七二二〇円及び内五八四万四〇三二円に対する昭和五七年一〇月二七日から支払済みまで年一四・六パーセント(年三六五日の日割計算)の割合による金員を支払え。

3. 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二、被告ら

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1. 被告中山建設株式会社(以下「被告会社」という。)は、昭和五三年三月二五日株式会社三和銀行(以下「三和銀行」という。)から、五〇〇万円を次の約定で借り入れた(以下、この借入金債務を「第一債務」という。)。

(一)  弁済方法 三六回分割払い(初回昭和五三年四月二五日、最終回昭和五六年三月二五日、毎月二五日払い)

(二)  毎回の弁済額 一三万八〇〇〇円(初回のみ一七万円)

(三)  利息 年七・一パーセント

2. 原告は、被告会社から保証委託を受け、同日、三和銀行に対し、第一債務の履行を保証した。

3. 被告会社は、昭和五四年二月二二日三和銀行から、四〇〇万円を次の約定で借り入れた(以下、この借入金債務を「第二債務」という。)。

(一)  弁済方法 三六回分割払い(初回昭和五四年三月二二日、最終回昭和五七年二月二二日、毎月二二日払い)

(二)  毎回の弁済額 一一万一〇〇〇円(初回のみ一一万五〇〇〇円)

(三)  利息 年七・一パーセント

(四)  被告会社につき破産の申立があったときは期限の利益を失い、残債務をただちに弁済する。

4. 原告は、被告会社から保証委託を受け、同日、三和銀行に対し、第二債務の履行を保証した。

5. 被告会社は、昭和五五年一二月二五日三和銀行から、六〇〇万円を次の約定で借り入れた(以下、この借入金債務を「第三債務」という。)。

(一)  弁済方法 三一回分割払い(初回昭和五六年六月二五日、最終回同五八年一二月二五日、毎月二五日払い)

(二)  毎回の弁済額 一九万三〇〇〇円(初回のみ二一万円)

(三)  利息 年八・五パーセント

(四)  被告会社につき破産の申立があったときは期限の利益を失い、残債務をただちに弁済する。

6. 原告は、被告会社から保証委託を受け、同月、三和銀行に対し、第三債務の履行を保証した。

7. 被告会社は、原告に対し、2の保証委託に際し、最終弁済期経過後弁済日まで借入残額に対し年三・六五パーセントの割合による延滞保証料を支払うことを、2、4、6の各保証委託に際し、原告が第一ないし第三債務を弁済したときは、弁済額に対して弁済日の翌日から年一八・二五パーセントの割合による損害金を支払うことを約した。

8. 被告中山公典(以下「被告中山」という。)は2、4、6の、被告水流保(以下「被告水流」という。)は2、4の各保証委託に際し、原告に対し、被告会社の原告に対する求償債務の履行を連帯保証した。

9. 被告会社は、昭和五六年七月六日、大阪地方裁判所において破産宣告を受け、第二及び第三債務につき期限の利益を喪失した。

10. 原告は、昭和五六年九月三日、被告会社の第一債務の残金一三万七三八五円、第二債務の残金一三二万六八〇二円、第三債務の残金五九三万六〇五四円を三和銀行に弁済した。なお、第一債務の残元金(一三万七二三六円)に対する昭和五六年三月二六日から同年九月三日までの延滞保証料は二二二三円である。

11. 原告は、昭和五六年九月三日、被告会社からの預かり金五万五七四〇円を第三債務についての求償元金の弁済に充当し、昭和五七年一〇月二六日、破産配当金として支払いを受けた三万六二八二円を同債務の求償元金の弁済に充当した結果、右求償元金の残額は五八四万四〇三二円となった。

12. よって、原告は受託保証人の求償権に基づき、(1)被告らに対し、第一債務、第二債務についての求償元金及び延滞保証料合計一四六万六四一〇円並びに求償元金一四六万四一八七円に対する昭和五六年九月四日から支払済みまで約定の範囲内である年一四・六パーセントの割合による損害金を支払うことを求め、(2)被告会社及び被告中山に対し、第三債務についての求償残元金及び昭和五七年一〇月二六日までの損害金との合計六八二万七二二〇円並びに求償元金五八四万四〇三二円に対する昭和五七年一〇月二七日から支払済みまで約定の範囲内である年一四・六パーセントの割合による損害金を支払うことを求める。

二、請求の原因に対する認否

(被告会社)

請求の原因事実はすべて知らない。

(被告中山及び被告水流)

1. 請求の原因1の事実は認める。

2. 同2の事実は認める。

3. 同3の事実は認める。

4. 同4の事実は認める。

5. 同5の事実は認める。

6. 同6の事実は認める。

7. 同7の事実は知らない。

8. 同8のうち、被告らが被告会社の債務の履行を連帯保証した事実は認めるが、その内容については知らない。

9. 同9の事実は認める。

10. 同10の事実は認める。

11. 同11の事実は知らない。

三、抗弁

(被告中山及び被告水流)

1. 被告会社は、土木建築工事一式の請負等を目的とする株式会社である。

2. 原告が第一ないし第三債務を弁済し、被告会社に対し求償債権を取得した日の翌日である昭和五六年九月四日から起算して五年が経過した。また、大阪地方裁判所は、昭和五七年一二月三日、被告会社に対する破産終結決定をし、同月四日をもって被告会社の商業登記簿が閉鎖されたが、同日からも五年が経過している。

3. よって、原告の被告会社に対する求償債権は時効により消滅しており、原告の被告中山、被告水流に対する請求権も時効によって消滅している。被告中山、被告水流は本件口頭弁論期日において右時効を援用する。

四、抗弁に対する認否

抗弁1、2の事実は認め、3は争う。

五、再抗弁

1. 三和銀行は、昭和五六年八月一日、被告会社に対する第一ないし第三債務の残金にかかる債権を破産債権として大阪地方裁判所に届け出た。

2. 右債権は、同年一一月九日の破産事件の債権調査期日において、管財人らから異議が述べられず確定した。

3. 原告は、昭和五七年九月二七日、請求の原因10のとおり代位弁済したこと及び求償権を取得したことを内容とする破産債権承継届出書を大阪地方裁判所に提出した。

六、再抗弁に対する認否

再抗弁事実は認めるが、原債権に対する時効中断が求償債権に対しても時効中断の効果を及ぼすものではない。

第三、証拠関係〈略〉

理由

一、被告会社に対する請求について

被告会社が、昭和五六年七月六日、大阪地方裁判所において破産宣告を受け、昭和五七年一二月三日に破産終結決定がされ、同日をもって商業登記簿が閉鎖されたことは当事者間に争いがない。法人について破産終結決定がなされたときは、その法人に残余財産がある場合を除き、法人格は消滅すると解されるところ、被告会社に残余財産があることを窺わせる証拠はまったくないから、被告会社の法人格は消滅したものと認められる。よって、原告の被告会社に対する訴えは当事者能力を欠くものに対するものであるから、不適法であって却下を免れない。

なお、この場合、破産終結決定により被告会社の負う債務が消滅することになるが、それによって被告中山および被告水流の保証債務が消滅するのではないことは、事柄の性質上明らかである(自然人である主たる債務者が死亡し、相続人も相続財産もないという場合にも同様の事態が生じる。)。したがって、保証債務との関係において主たる債務が存続すると解することは相当でない。

二、被告中山及び被告水流に対する請求について

1. 被告会社が第一ないし第三債務を負担していること、原告が被告会社から委託を受けて被告会社の右各債務の履行を保証したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証、第七号証、第一三号証、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第六号証、第一二号証、第一八号証によると、(1)被告会社は、原告に対し、第一債務の保証委託に際し、最終弁済期経過後弁済日までは借入残額に対して年三・六五パーセントの割合による延滞保証料を支払うことを、原告が第一ないし第三債務を弁済したときは弁済額に対し弁済日の翌日から年一八・二五パーセントの割合による損害金を支払うことをそれぞれ約したこと、(2)被告中山は第一ないし第三債務の保証委託に際し、被告水流は第一及び第二債務の保証委託に際し、原告に対し、被告会社の原告に対する求償債務の履行を連帯保証したこと、(3)原告は、昭和五六年九月三日、第一債務の残金一三万七三八五円、第二債務の残金一三二万六八〇二円、第三債務の残金五九三万六〇五四円を三和銀行に代位弁済したことが認められる。

2. 被告中山らは、原告の被告会社に対する本件求償債権が、昭和五六年九月三日から五年の経過により時効消滅したと主張する。しかし、原告の被告会社に対する求償権は、被告会社についてなされた破産終結決定により消滅しているから、時効により消滅したとみる余地はない。もっとも、被告中山らの右主張は、原告の被告中山らに対する求償債権の連帯保証債務履行請求権が時効によって消滅したという趣旨のものとみることができる。しかるところ、被告会社の原告に対する本件保証委託行為は主たる債務者たる被告会社の営業のためにされたものであるから、原告の被告会社に対する求償債権は商行為により生じた債権として五年の消滅時効に服するものであり、したがって、右求償債務を保証した被告中山及び被告水流に対する連帯保証債務履行請求権の消滅時効期間も五年と解すべきである。

3. 原告は、消滅時効の中断を主張するので、その当否について判断する。

(一)  まず、原債権(三和銀行の被告会社に対する債権)の消滅時効が破産債権届出により中断した後に、代位弁済した原告が原債権の承継を破産裁判所に届け出た場合、求償債権自体について破産債権届出をしていなくても、求償債権の消滅時効が中断するかという点について検討する。原告が、昭和五六年九月三日、三和銀行に対し第一ないし第三債務の残金を代位弁済したこと、被告会社に対する破産終結決定が昭和五七年一二月三日にされたことは前記のとおりであり、三和銀行が昭和五六年八月一日、第一ないし第三債務を含む被告会社に対する債権を破産債権として破産裁判所に届け出たこと、原告が昭和五七年九月二七日破産裁判所に対して右代位弁済額につき破産債権承継届出書を提出したことは当事者間に争いはない。

(二)  弁済による代位の制度は、弁済により本来消滅すべき債権及びその債権につき設定された人的物的担保権を弁済者が行使しうることとし、弁済者が求償の実をあげることをその趣旨とするものであるから、弁済者に移転した原債権は、求償権を実質的に担保する性質を有することを否定できない。しかしながら、原債権と求償権は元本額、利息及び遅延損害金等を異にする別個の債権であり、原債権が求償権を実質的に担保する性質を有するとしても、それを理由として原債権について生じた時効中断の効果を求償権に及ぼすことはできないというべきである。

すなわち、たとえば保証債務の場合、主たる債務に対する時効中断の効果は保証債務にも及ぶが(民法四五七条一項)、これとて保証債務の付従性から当然にもたらされるものではなく、主たる債務の存続中に保証債務のみが消滅するとすれば、保証人を立てたことの本来の目的が減殺される結果の不都合性を慮って特に規定されたものと解される。しかも、これは主たる債務に対する時効中断の効果であり、保証債務に対する時効中断の効果は原則どおり主たる債務の時効中断効をもたらさないのである。本件のような求償権と原債権の関係は前記のとおり原債権が求償権を担保する性質を有するものであり、右との対比からしても、原債権に対する時効中断の効果が求償権に及ぶと解することは相当でない。

もっとも、約束手形が支払のために授受された場合、手形金請求の訴えの提起は、原因債権の消滅時効をも中断すると解される(最判昭和六二年一〇月一六日民集四一巻七号一四九七頁)。しかし、それは債権者の手形金請求の訴えが、通常、原因債権の履行請求に先立って提起されるところ、右訴えの提起後も原因債権の消滅時効が進行するとすれば、債権者としては原因債権についても訴えを提起するなどの手段を講じるという煩に耐えねばならないこと、他方、手形授受の当事者間において、原因債権の消滅は手形金訴訟における債務者の人的抗弁となるのであって、原因債権の時効による消滅もその例外ではなく、債務者が右訴訟係属中に完成した原因債権の消滅時効を援用して手形金の請求を免れ得るとすると、金銭債務の簡易な決済という手形制度の意義を損なうことになることにその実質的な趣旨があると考えられる。しかるに、原債権と求償権の関係にあっては、原債権に時効中断手続が取られた場合その効果を求償権に及ぼさないとしても、これによって弁済による代位の制度が損なわれるような不都合が生じるとは考えられない。

このように解する結果、保証人は原債権ないしこれを被担保債権とする担保権の行使が不可能となるが、本件において、保証人たる原告は将来取得すべき求償権を破産債権として届け出ることができたのであるから、このような措置を講じなかったため求償権が消滅することとなったとしても、原告としては、その結果を甘受すべきものである。

また、原告が破産債権承継届出書を提出したことにより、求償権についても破産債権の届出をしたことにならないことはいうまでもないところである。

(三)  また、仮に、原告の被告中山らに対する求償権の連帯保証債務履行請求権について、その消滅時効の進行が被告会社の破産手続における破産債権承継届出書の提出により中断するとしても、中断した時効は破産手続の終結により再び進行を始めると解されるところ、その時効期間が民法一七四条ノ二により一〇年に延長されることはないと解すべきであるから、原告の被告らに対する右請求権はやはり時効により消滅しているというべきである。

すなわち、民法一七四条ノ二が短期消滅時効にかかる債権につき、判決の確定によりその時効期間を一〇年に延長する趣旨は、判決等によりその債権の存在が確定され、強い証拠力が付与されたというところにある。破産手続において確定した破産債権の債権表への記載については、それにより既判力が生じるかということにつき争いがあるものの、仮に既判力を否定するとしても、破産債権の存在が明確になるということからすると、これについて民法一七四条ノ二を適用してよいと考える。しかし、破産債権の確定によりその存在が明確になるのは、本件についていうと、破産債権たる原債権のみであるといわなければならない。三和銀行と原告との保証契約の成否、原告と被告中山らとの保証契約の成否等が破産債権の存否と必ずしも関係するものでないことからも明らかなとおり、求償権や、まして求償権についての連帯保証債務履行請求権の存在は、破産債権の確定によって確定されるものではない。したがって、原告の被告中山らに対する請求権は、民法一七四条ノ二の適用につきその基礎を欠くものである。

(四)  よって、右のいずれの点からみても、原告の被告中山らに対する請求権は時効によって消滅しており、被告中山らは右消滅時効を援用するので、原告は被告中山らにこれを請求できないというべきである。

三、以上の次第であるから、原告の被告会社に対する訴えは不適法であるのでこれを却下し、被告中山及び被告水流に対する請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

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